忍足さんの学校が、新学期を迎えた。忍足さんは高校2年生になった。 約1年前、私はこの世界へやってきたのだ。また忍足さんと過ごす1年が始まったと思うと、元の世界へ戻りたいという思いより、なにか勝るものがあった。 元の世界に戻りたくない訳ではない。ただ、忍足さんと過ごす日々はぽかぽかしてて、ずっと忍足さんの傍にいたい・・とか、思ってしまうのだ。なんでだろう。 「ただいまー」 「あ、お帰りなさい!」 ばたばたと玄関に駆け足で向かえば、テニスバックを背負った忍足さんがにこりと笑った。私もその笑顔につられるようにして笑顔になる。 最近の忍足さんは、いつもより少し帰りが遅い。それは体育祭が近づいてきたことを示していた。 放課後は体育祭の競技の練習をし、そのあとにいつもと変わらない量の部活の練習をこなす。どうやら試合も近いようで、練習の量を減らす訳にはいかないようだ。 「お疲れ様です。毎日大変ですね」 「せやな。大変やけど、試合には絶対勝ちたいし」 「頑張ってくださいね!応援してます。たしか今週の日曜日でしたっけ?」 「ああ。練習試合やけど、がんばらなあかんなあ」 そう言って忍足さんはにかりと笑った。 ・・いいなあ、私も忍足さんの試合をする姿を見てみたい。忍足さんは自分のテニスのことはあまり話してくれない。運動神経の良い忍足さんだから、上手いということは間違いないと思うのだが・・実際にこの目で見て、応援したい! けれど忍足さんは、私が『試合を見てみたい!』とか『体育祭を見に行きたい!』と言うと、決まって「あ〜・・」と言葉を濁し、微妙な顔をするのだ。そんな忍足さんの様子を見れば、私はそれ以上お願いすることができなくなる。 だから今回も、「見に行きたい」と口にすることはなかったのに。 「・・」 「はい?」 「見にくるか?」 「・・・・・・はい?」 思わず聞き返せば、「嫌やったらいいんやけど」と落ち着いた声で返された。 言葉を理解するのに時間がかかり、おそるおそる忍足さんの顔を見る。 「前も来たいって言ってたやろ。今もそんな顔してたから」 「・・本当に!本当に、行っても良いんですか!?」 「駄目やったら言わへんで。あ、ちゃんと顔は隠してな」 「やったあ!うわあ、凄い楽しみです!いっぱい応援しますね!」 「おおきに」 照れたような笑顔を浮かべて、忍足さんはにこりと笑った。 うわあ、本当に、忍足さんのテニスしている姿を生で見られるなんて!嬉しいすぎる!きっとかっこいいんだろうなあ。これは応援しなくては!ああ、日曜日が待ち遠しい! そんなわくわくしている私を見てか、忍足さんが少し呆れたように口を開いた。 「そんなに楽しみなん?」 「はい!だって、忍足さんのテニスしてる姿が見れるんですよ!嬉しいです!」 「(可愛い・・)あんま、期待せんほうがええで?」 「きっとそんなことないですよ!うわあ、凄い楽しみだなあ。早く日曜日にならないかな」 「これは負けられへんなあ・・」 「あ、そっか。試合だから勝ち負けもあるんですよね。でも私はやっぱ忍足さんのテニスしてるとこが見れるのが、すっごい嬉しいです!かっこいいんだろうなあ!」 「(・・俺このままに殺されるんとちゃうん)」 あれやこれやと私が騒いでると、忍足さんは俯いて手で顔を覆ってしまった。なにか気に触ることを言ってしまったんだろうか・・?急に不安になり、そっと忍足さんに声をかける。「・・忍足、さん?」 「ごめんなさい、・・私忍足さんの気に触ること、言っちゃいましたか?」 「は?・・ちゃうちゃう!ただ・・」 「・・」 「(好きな子に『かっこいい』連呼されて、恥ずかしいっちゅーか・・嬉しいっちゅーか・・)」 少しの沈黙のあと、忍足さんは「あー・・やっぱなんでもあらへん」と少し諦めたような声を出した。・・怒ってはいないみたいだ。とりあえず、良かった。 「そういえばなんで、試合来ても良いって言ってくれたんですか?」 「だって、俺が試合あるとか学校行事があるとかそういう話する度、寂しそうな顔するやん」 「え!寂しそうな顔、してましたか!?」 「数秒やけどな」 私はそんな寂しそうな顔をしていたのだろうか!確かに忍足さんから試合があると聞く度に、『ああ、行きたいなあ・・』とは思ってたけど・・! ・・これからは、そういうこと思っても顔に出さないようにしよう。といっても自覚がないんだから直し様がないのだけれど。 「あと、俺かて、にかっこいい姿見せたいし」 少し照れたように、少しふて腐れたように、忍足さんはぽつりと言葉を漏らす。その言葉にちょっとだけ、どくんと心臓が大きく揺れた。きゅんとするような、切なくなるような。思わず俯いてしまう。・・なんだろう、この感じは? 「でもちゃんと、帽子とか眼鏡はちゃんとしてな。あとなるべく、氷帝の連中には近づかないこと。俺、それが凄く心配やってん」 「大丈夫ですよ、ちゃんと顔は見えないようにしてきます!氷帝の人達にも近づきません!任せてください!」 「あー・・心配やなあ。何かあったら大声出すんやで。すぐ行くから」 「そんな、平気ですって!私ももう子供じゃないですよ!」 「・・不安や」 ふぅ、とため息をつく忍足さん。その姿が面白くて、思わず笑ってしまう私。 とにかく日曜日が、すごく楽しみだ。 BACK ↑ NEXT |