「ただいまー」 「お帰りなさいっ!」 その声が聞こえた瞬間、玄関に急いで駆け寄る。私の姿を確認すると、忍足さんは静かに微笑んだ。 「試合、お疲れ様です」 「ん、おおきに」 今日は色々あった。忍足さんの試合を見に行った筈が、跡部さんに見つかってしまったり・・。跡部さんが忍足さんに私と接触したことを言わないか不安だったのだが、忍足さんの様子を見る限りどうやら大丈夫みたいだ。 問題は、どうやって体育祭に行くかだ。また内緒で行っちゃえば良いかな。 忍足さんは一旦部屋へ戻り、着替えている間に私は夕食をお皿に盛り付ける。今日のメニューはから揚げや海老フライなどの揚げ物をメインとしたものだ。忍足さんが試合(練習試合だけど)に勝ったということで、ちょっとメニューを増やして豪勢にしてみた。 「おお、えらい豪華やなあ」 「へへ、ちょっと忍足さんの試合に感動しちゃったんで」 「感動って、大げさやなあ」 「本当に感動したんですよ!テニスをしている忍足さん、すっごいかっこよくて・・すっごい、きらきらしてました」 「あ〜・・そう、か?」 忍足さんは頭をがしがしと掻きながら、少し俯いて「そんなん言われると、照れるなあ」と呟いた。そんな忍足さんの耳はほんのりと朱に染まっていて、なんだか私は温かい気持ちになってしまう。 「に少しでも格好良いとこ見せたくてなー、実はめっちゃ緊張しとったで」 はにかみながらそう言う忍足さんに、自然と頬が緩んでしまう。あんな真剣な瞳の奥に、緊張も隠し持っていたなんて少し意外だ。 「あの後、慈朗くんの試合も見たんです」 その前に、跡部さんに会ってしまったけれど。そこは絶対に内緒だけれど。 「慈朗くんって、すっごく楽しそうにテニスするんですね」 「せやな。それで自分が負けても勝っても、めっちゃ嬉しそうにしとるなあ」 「なんだかこっちまでワクワクしちゃいました」 「・・そか。良かったな」 慈朗くんは始終にこにこしながらテニスを打っていた。自分の勝利が決まった時も相手に飛びつきそうな勢いで駆け寄り、「またやろう!」と笑っていた。 そんな慈朗くんの様子から、本当にテニスが好きなんだな、と思った。 「跡部さんや、向日さん?や、えっと・・宍戸さん、でしたっけ?その人達の試合も見てみたかったです。どんな試合するのかなあ」 「ああ・・まあ・・じゃあ今度の試合も見にきいや」 「本当ですか!?やった、凄い嬉しい!」 「ん〜・・・ああ」 また忍足さんのプレイを見ることが出来ると思うと、わくわくして仕方がない!今までテニスなんて一度もやったことがないし、ましてや試合も見たことのなかった私にさえ、テニスは凄く奥が深いスポーツだということが分かる。 そのすばらしさを教えてくれたのは紛れもなく忍足さんで、その忍足さんの試合をもう一度見れるなんて・・幸せすぎる! 「あ〜・・」 「?なんですか?」 「(俺だけを見ててほしい、・・とか、あかんあかん!俺、なにヤキモチやいてんねん!嫉妬は醜い、って!)」 「・・?」 「あー・・なんでもあらへん」 俯いて小さく首を振り、忍足さんは困ったように笑った。一体どうしたというのだろう。また私はなにか困らせるようなことを言ってしまったのだろうか。 「(嫉妬はあかんねん!仕方あらへん、もうヤケクソや!)・・せや!、体育祭来ぃや。がっくんとかが1回連れて来いってうるさいねん」 「え、大丈夫なんですか!?」 「帽子と眼鏡つけとけば平気やろ。それに挨拶程度しか話させんし」 にこりと笑う忍足さんにどこか違和感を覚えながらも、思わぬ誤算に舞い上がりそうになる。どうやって体育祭に行こうかと思案していたが、これなら堂々と行けるじゃないか!いや、堂々と言っても去年のような派手な行動は避けたいが。 「わあ、嬉しいなあ」 「が喜んでくれるなら、俺も嬉しいしな」 先ほどからにこにこと笑う忍足さんに、やっぱり違和感を拭いきれない。どこか無理をしているような笑顔なのだ。じっと忍足さんを見つめると、忍足さんは少し不思議そうにこちらを見つめた。 せっかく体育祭に行っても良いといわれて、もしかしたらそれを台無しにするかもしれないけれど。忍足さんには、そんな作ったような笑顔はしてほしくないのだ。 「あの、忍足さん。なんか、無理してませんか」 「え?」 「本当は私に来てほしくないとか・・そういうの、隠してませんか?」 忍足さんは少しびっくりしたように目を丸めた後、苦い顔を作ってため息をつくように笑った。 「・・ほんまは、来てほしくないねん」 斜め下を見ながら、忍足さんは静かに呟く。その零れた言葉にぎゅうっと胸を締めつけられながらも、次の言葉をひたすら待つ。やっぱり、忍足さんは私に来てほしくなかったんだ。その事実がどうしようもなく私の心を締めつけた。 「俺だけを見てほしい。あんま、他の奴のことは見ないでほしい」 びっくりして忍足さんの顔を見るが、俯いた忍足さんの表情は長い前髪によって確認することができなかった。それって、どういう意味なんだろう。もしかして、嫉妬とか・・そういう類のものなんだろうか。 どうしよう。 そうだとしたら、嬉しい。――そんな風に思っている自分にびっくりした。 「ごめん。かっこ悪いなあ、俺」 「っそんなことないです!」 開き直った様に苦笑いしながら、忍足さんはそう言った。その言葉に反射的に口を開いてしまい、そんな自分にまたびっくりする。少し声を上げてしまったため、忍足さんがびっくりしたような表情でこちらを見た。 やってしまった。そう思いながらも頭の中で必死に伝えたい言葉を探す。かっこ悪くなんてない。忍足さんは、かっこ悪くなんてないのだ。 「世界中どこを探したって、えっと・・こんなに、かっこいい人は・・いない、と思います・・」 我ながらなんて恥ずかしい台詞を言っているんだろう!そう気付いた時には遅くて、一気に熱くなった顔を隠すように俯き、最後の方はぽつりぽつりと呟くようになってしまった。きっと忍足さんには最後まで聞こえてないだろう。ああ、自分、なにやってるんだ!すっごい恥ずかしい!消えてしまいたい! 「」 「・・はい」 恐る恐る忍足さんの顔を見上げる。忍足さんも、顔が赤い。けれども凄く嬉しそうに笑ってこちらを見ていた。 「おおきに」 BACK ↑ NEXT |