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どうやら私は本当に異世界トリップ、というものをしてしまったらしい。ここ数日の間にそれが判明した。最初の内はどうせ夢オチだろうと考えていたのだが、寝ても寝ても元の世界に戻れる気配はない。いやむしろ、夢である筈の世界の中で、さらに夢を見るという暴挙まで成し遂げたのだ。未だに信じられないこと(私がギャルゲーの主人公級のメインキャラクター・・)もあるのだが、とにかく受け入れるしかない。泣き言なんて言ってる暇はないのだ。ファイト、がんばれ、私。 ここで、忍足さんに教わったこと・話し合ったことを書きとめておこうと思う。 まず忍足さんについて。忍足さんは春から高校1年生で(私と同じだ)、一人暮らしで(なんでも家族は大阪だとか)氷帝学園というところに通ってるらしい。(すごい名前だ。もしかしたら名門なのかもしれない。もちろん私の住んでいた世界にはなかったぞ、こんな学校!)何かあったら来るように、と場所を教えてもらった。3個先の駅で降りて徒歩10分だとか。 そして私も本来ならば高校に行かなくてはならない。でも生憎、この世界に私の戸籍なんてものは存在しないし、金銭的な面でも学校に通うのは無理だ。忍足さんは好きなだけうちに住めば良い、と言ってくれたのだが、その言葉をそのまま受け入れるほど、私は甘ちゃんではない。長い討論の末、私は忍足さんが学校に行ってる間はどこかでバイトする、ということで落ち着いた。(忍足さんはとても不満そうだった) もちろん私の学力は中学生並、それで生き残れるほどこの社会は甘くない。それに元の世界に戻れた時のためにも、勉学は疎かにしてはならない。これも討論の末、忍足さんの帰宅次第、その日習ったことを私にも教えてくれることになった。うう、悪いなあ。 そういえば私が出ているゲームの題名は、『アガインド!』というらしい。お願いしてそのゲームを見せてもらったのだが・・うん。私、である。紛れもなく私だ・・。声もそっくりだし(声優さんというものは凄いな、と感じた)絵であることには変わりはないが、私にすごく似ている。ついでに言うと登場人物にもちゃんやクラスの男子が出ていた。これもまたそっくりである。ただストーリーは私自身、体験したことのない話もあった。逆に言えば、私の体験したことはたくさん書かれていた。・・体重も、胸のサイズも、コンプレックスも、全部書かれていた・・・。・・・、しばらく立ち直れそうにない。 第2話 未知の世界 「忍足さん、おはようございます」 「おはよう!今日も良い朝やな〜」 忍足さんと言えば、毎日こんな調子である。彼曰く、私と一緒に住んでいることがとても嬉しいらしい。・・・て、照れるじゃないかこのやろう。本当に、迷惑と思っている様子は微塵もなくて。うーん、良い人だなあ。 忍足さんは私ににこりと笑いかけたあと、伸びをしながら台所に入っていった。恥ずかしい話だが・・私は料理、が、作れない。料理を作ったのは家庭科の調理実習くらいだ!そう言うと忍足さんはハハハと軽く笑って「知ってる知ってる」と手をひらひらとさせた。 ・・・とても、複雑な気持ちになった。 「忍足さん、そろそろ私、バイト探しに行きたいんですけど」 「ん〜?ちょい待ちや〜」 台所からはジュージューと音が聞こえる。それと共に良いにおいもふわりふわりと漂った。 ――今私が着ている服、実は忍足さんが買ってきてくれたものである。忍足さん、私の服のサイズも好みも全て知っていた・・さすがに少し怖くなってしまったのは、私が死ぬまでお腹の中にしまっておこうと思う。 忍足さんは・・自分で言うのもなんだが・・・、相当の、私のマニアである。ちょっと怖い。でも忍足さんは私の前では「萌え〜!」だとか、そういうオタク的な要素は一切見せない。ただの爽やかなお兄さんである。しかもなかなかのルックスの持ち主である。さぞかし女の子には困らないだろうに・・こんな人もギャルゲーをやるなんて・・うん、ある意味凄い。べ、別に偏見とかはないぞ。 しばらく椅子に座って忍足さんを待っていると、ベーコン入りの目玉焼きを載せたお皿を両手に持った忍足さんがやって来た。出来たと言ってくれれば取りにいったのに! 「ありがとうございます」 「ん。食べよか」 「はい、いただきます」 「いただきます」 忍足さんの作るご飯は、おいしい。聞けば忍足さんは中1の頃から1人暮らしを続けて来たのだとか。凄いなあ。なんでも、忍足さんはどうしても東京の氷帝学園に行きたかったらしいのだが、それを両親は猛反対。それならば、と忍足さんは家を出て行き東京に1人暮らしをすることを決意したらしい。それに見合う十分な資金もあったし(今は両親も折れて毎月資金援助してくれているらしいが)、どうしても氷帝学園でやりたいことがあったのだと淡々と語る忍足さんからは、確かな覚悟が見えた。 寂しくなかったのかと問えば彼は目尻を下げて「ちょっとな」と乾いたように笑った。そんなこんなで彼は一通りの家事をこなすことができる。料理も然り、だ。 「美味しい」 「ただの目玉焼きやけどな。おおきに」 前にも言ったが、忍足さんは私の前ではオタク的要素は見せない。・・だけど・・ 「な、何かついてます?」 「ん!?ああ、なんも!なんもあらへん!」 こう、ことあるごとに視線を感じるのだ。 視線を気にしすぎるのは良くない。まるで自意識過剰だ。そう思いなおし再びご飯を口に運ぶ。流石に忍足さんの視線は感じなくなったが、何故だか忍足さんの頬はほんのり赤い。・・男心は、よく分からない。 「あのですね、そろそろバイトを探したいんです」 カシャーン 私がそう言葉を落とすと、忍足さんも持っていたお箸を落としてしまった。びっくりして忍足さんの顔を伺う。・・なんか、今にも「なんやと!?」とか言い出しそうな・・そんな顔を、していた。 「お、忍足・・さん?」 「ん、ああ、すまん」 慌てて身を屈めてお箸を取る。起き上がる時に忍足さんはごつん!とテーブルに頭をぶつけた。 「せ、せやからバイトなんてせんでもええのに」 頭をさすりながら忍足さんが呟く。 けっこう凄い音がしたのだけど・・大丈夫、だろうか。 「いやいや、流石に悪いですから!」 「でもなあ」 忍足さんはどうしても納得がいかないようだ。忍足さんはしばらく食べるのをやめ(それもそうだ。お箸を落としたのだから)、腕組をしてなにやら考え事をしていた。すると自分の掛けていた眼鏡を外し、私に突き出してきた。 「これ、掛けてみて。度入ってへんから」 「え?・・あ、はい」 意味が分からないが言われたとおり忍足さんの丸眼鏡をかけてみる。わわ、本当に度が入ってない。何で伊達眼鏡なんてつけているんだろうなあ、忍足さん。私つけてない方がかっこいいと思うのに。 軽く髪を整えて顔を上げる。どんな意図があるのだ、これ。 「どうですか?」 「ブフッ!!」 「忍足さん!?大丈夫ですか!?」 飲んでいた水を、変なところにつまらせてしまったらしい忍足さん。慌てて駆け寄って背中を軽く叩く。お箸を落としたり、頭をぶつけたり、窒息死しそうになったり、なんて忙しい人なんだろう。そう思いながらしばらく背中をさすっていると、ようやく落ち着いたらしく、「すまん、すまん」と手をヒラヒラさせた。何故だか、耳を真っ赤にさせながら。 「う、ん・・だいぶ印象、変わるな」 「・・?あ、でも私眼鏡似合わないんですよ」 「!?そんなことあらへんよ!?」 「え、あ、・・ありがとう、ございます」 「ほんま、なんていうんやろ・・俺らにとっちゃ眼鏡は萌えアイ――ごほん、なんでもあらへん」 わざとらしく咳払いをし、「ともかく」と背を正す忍足さん。ねぇ、『萌え』って聞こえたんですけど気のせいですか? 「ともかく、その――は俺たちにとって有名、やろ」 「ああ・・そう、なんでしょうか?」 「で、コアな奴らはにあらぬことを考えたりする訳で・・」 「う」 「そんな、””にそっくりな女の子がおったら・・な?分かるやろ?」 か、考えたくもないが・・変質者に狙われやすい・・ということだろうか。そういえば私、忍足さんの家の外から出たことがない。アルバイトをすることに頷かなかったのも、危険だということだからか。お、忍足さん優しいじゃないか! そして忍足さんは喋り続ける。ちびっ子でさえもの存在を知っとるんや!ほんま、は””にそっくり・・って言うたら変やけど。二次元から飛び出してきたみたいなもんや。まじで。みんな驚くで。そういう、混乱も避けなあかんやろ?せやから・・バイト、どうしてもするって言うんやったら、なにか変装とかした方が安全やと思うねん。 そこで眼鏡、という訳だ。確かに忍足さんの言うことは一理ある。そうか、変装した方が良いのか。 「うーん、眼鏡かけて・・外歩く時は帽子被って・・変装言うたらそんなもんか?」 「カツラとか?」 「帽子被ったらズレてしまわん?」 「わわ、それは悲惨ですね。帽子だけ深く被ったら大丈夫ですよ」 「かなあ。あ〜〜心配や・・・っ、せや!俺的には三つ編みも・・」 「っくしゅん!・・ん?何か言いました?」 「・・なんでもあらへん」 とりあえず、私と忍足さんの間で決まったことがもう1つ。外に出る時は帽子と眼鏡!(ちょっと有名人気分だ。・・って、有名人なのか。一応。) BACK ↑ NEXT |